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カフカ 夜の時間―― メモ・ランダム/高橋悠治




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カフカ 夜の時間/高橋悠治(1989
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●空白を残す 44
どこかでよんだ。インディアンのかごはあみあげてしまわない。どこかをのこして魂の出口にする。

●息が音にかわる瞬間 45
ちいさい音、たよりない声、息が音に変わる瞬間からはなれるな。きくひとのからだからちからがぬけていくような音楽だけが、魂の出口をあけてくれる。

●聞こえない音に耳を澄ませる 45
きこえる音だけでうまくやろうとすると、人間だけのコミュニケーションのレベルにとじこめてしまう。古代人はそれを人間の思いあがりと呼んだ。名人芸、それもひとつの限界だ、とマセダが言っていた。

●人間のうた、魂の不自由 45
人間的なうた。そこからはこの魂の自由をかんじられない。逆に、遠いものと語りあう音を手にするには、沈黙に耐える以外にないが、そんなことが、だれにできるのだ。

●喉は人のマイクロフォン 49
トガリもクビンも(楽器)女たちののども、みんなマイクロフォンなのだ。

●戯曲、詩作、ライティングのヒント 51
クセナキスの「シナフェ」というピアノとオーケストラのための曲をもらって、練習したことがあった。( 中略 ―― 問題)二つの音をつづけてひいて、それがメロディーにきこえないようにする。どうしたらいいか。
そのこたえ。二つ目の音の強さをわずかに変え、はじまる時間をわずかにずらし、前の音との間を気づかないほど区切る。それだけのことで、二つの音は一本の線ではなく、別々の線が偶然出会ったようにしかきこえない。

●音のうまれるとき 54
音のうまれるときは、人間の内部にもからっぽな空間がある。心にじゃまされずに音に気づき、音のはこびをほとんど意思の力で消えるまでたどる。音をつくる身振りは訓練をかさねて、意識からはなれていく。フィードバックの環がまわりだすと、はじまりの点はもうない。

●音は空間だ 54
音がめざめる瞬間は、もののなかにあるのか、人間のなかにあるのか。そのどちらでもない。音はどこかある場所にあるものではなく、音が空間であり、場所である。音がめざめると、そのなかにものがあり、そのなかに人間も要る。

●音はしずく、めざめの裏側 55
音というしずくに内側からうつる世界のなかのものと人間。だが、音がうつしているのは、それだけではなかった。
音がめざめる前の音は何だろう。音というこの空間はどこからでてくるのだろう。見えない世界、音の裏側にある何もふくんでいない空間、要素をもたない空の集合。そこから音がひらくとき、それは窓になって、世界と世界でない場所の間にひらく。

●破壊的な行為 58
矛盾を解決して単純化しようとすること自体、かなり破壊的ではないだろうか。

●ゆれうごく~ 籠居願望と虚栄心 126
作曲したものは、書きなおす度に音がやせ細り、消滅していく。何回か演奏されたあとで、すてたものも多い。ピアノを弾くのがいやになった時は、レパートリーの楽譜も売り払ったために、気が変わったり、必要がでてきても、二度と見つからないものもあった。
ピアノさせ手放して今にいたる。作曲家仲間から離れ、レコードを作るのをやめ、本を書くのをやめ、しばらくやっていたバンドも解散して、ひとりになった。
ひとりになったからといって、何もはじまらない。一つの方向をめざして、よけいなものを切りすてた結果にすぎない。じっさいには、隠れて生きたいという衝動と、人前で目立つことをしつづけたいという虚栄のあいだの往復運動だった。よりどころを求める不安と、何にもしばられたくない気持ちにはさまれたためらいだった。

●樹液の波に沿う
いつでもゆめみていたいのだ、できないけど。とおくにいってしまうのではなく、いまここで、だれにも気づかれず、日常生活のこまごました作業をつづけながら、薄皮一枚下にゆれている樹液に波長をあわせられればいい。そのために、目をよせてみたり、目の端でものを見たり、ななめ上を見あげながら焦点をずらしてみる。 1985  p165

●仕事の意味は死んだ 169
グレン・グールドは五十歳で死んだ。いまの五十歳といえば、まだわかい。だが、かれの死ははやすぎはしなかった。
かれだけではない。だれが死んだって、やりのこしたしごとなどないだろう。しごとの意味の方がさきに死んでしまっている。どこかでそれとしりながら、しごとをつづけているのが、いまの音楽家の運命だ。こういうしごとをしていれば、いのちをすりへらしても当然だ。













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カフカ高橋悠治

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