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【 MEMO 】アウラ 未知のイゾラド 最後のひとり/語り・町田康

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ブラジルではいまでも、先住民が時々、突如、文明社会に現れることがある。

謎の先住民族の最後の一人「アウラ」。
彼だけが話す未知の言語。
どの少数民族がしゃべる言葉とも違っていた。

―― アウラが言語を喋っているかどうか立証できないはず。もしも彼が知的障害のような症状があったら? パンドラの箱を覗き込んでいるようなものかもしれないという徒労感が、学者にないんだろうか。学者にそういう徒労感あるかも。あとは、民族によっては言葉を持つ人間が限られてる(誰にでも使えるツールにしない。権力者、呪術者だけが言葉を司る・利用する・用いるって可能性もある)

アウラが保護区に移され、異なる住民族と住んでいた頃(1980年代?) ―― その先住民族の男をナタで斬り殺したらしい。

―― 生物としてのルーツや生理、肉体の作りは同じでも、文明社会で暮らす人類と同じ世界で生きてない。倫理観とかルール、法を共有していない。

先に死んだアウレ。アウレは文明側の人間といる時は微笑みを作り、感情が読めない複雑な表情をした。アウラは平然としているようだった。補完関係。二人はいつも一緒にいた。

アウレが急に痩せ始めて、車で6時間かかる病院に連れて行かれた。アウレとアウラ。二人は一緒に車に乗って、ずっと肩を寄せ合っていた。車から見える景色に全てに驚いているようだった。「特に車が怖かった様子でした」と付き添いの看護婦が語る。アウレは緊急入院。末期癌だった。二人はベッドからマットレスをはがして床にしき、寄り添うようにして眠っていたという。2012年9月3日月の晩、三日月の晩、アウレ死亡。アウラはずっと見つめていた。それ以降、アウレのことは一度も語っていない。

―― 世界で誰とも言葉が通じないっていうのはどういう気持ちなんだろうな。最後の一人っていう自覚はあるのか? 生きていても、他に人類が生きていても、「他」だとか、「人類」という概念がなければ、アウラは、アウレが死んだ時、この世界でひとりぼっちになったんじゃないか。ただ、他の人と話が通じないという孤独感は、最後の部族の生き残りだからといって、アウラに固有の感情じゃないかもしれない。最後のひとりになった人じゃなきゃわからないこともたくさんあるだろうし、相対化もできないけど。孤独で、寄る辺もなく、自殺するような人は、似たような気分かもしれない。でも、だとしたら、だとしても? アウラは? つまりながく、そういう精神状態で暮らしてきたってこと?

「オッキン」という死を意味する単語。アウラが頻繁に使用意味する言葉を口にするようになった。アウラの部族は矢か、何かで皆殺しにされたらしい。銃火器かもしれないという推測もある。どうしたら文明側の人間の仕業かもしれない。

ブラジルの森が開拓されていた1970年代の後半、文明側の侵入者が殺戮したのかもしれない。公文書には何一つ書かれていない。発見した時にはアウレとアウラ、2人しかいなかった ―― と書かれているだけだ。

2人の小屋があったという森を目指す。今アウレが住んでいる場所から西に1000km。ブラジルのパラ州。森は採掘場や牧場になっている。

いくらアウラの言葉に耳をすませても、およそ意味が推測できる言葉は800。たったそれしきの単語しか解読できていない。もしかして、雨の夜だったのではないか。弓矢で襲われ、血が飛び散ったのではないか。髭を生やした非先住民が、大きなカヌーでやってきたのではないか。大きな音と火花 ―― それは銃のことではないか。みんな目の前で死んでいたのではないか。二人きり暗い森を歩かねばならなかったのではないか。

誰にも分からない言葉と記憶を抱え、一人生きている男がいる。


アウラ
未知のイゾラド 最後のひとり
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20181216_2
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