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続 物語をものがたる/河合隼雄(1997 要約

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「50年 ―― わたしはわからないものを書いてきました」という大庭みな子。
河合隼雄と「未分化な性・存在・領域」について語らう中村真一郎 ――
A・ガッテンは『源氏物語』を通し、省略《編集性》の美、唯美的な日本的感性を示唆する。
物語を汲み尽くす読解とは、対象となる作品の精査はもとより、重なりあう様々な要素、時間、空間に思い巡らせ、あらたな地平に突き抜けることだ。





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続 物語をものがたる/河合隼雄( 要約
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【 中村真一郎/有明けの別れ(平安後期) 】
●男女の未分化 66
男女の未分化は「異常のこと」としてとらえると“御伽噺”になるか“変態的なデカダンスの物語”になってしまう。古今東西の文学作品は、おおよそこうして扱ってきた。
そんな状況にあって『有明けの別れ』は、男女の未分化を“普遍的な問題”として描いている。
中村 ―― これは非常に新しい手法です。16、7~20歳という主人公を通し、同性と異性との未分化のところを詳しくリアルに、非常にうまく書いている。
河合 ―― 未分化なものがだんだん分化して成熟するということを、ある程度はみな体験しているわけですね、そして結婚していく。ところが、その未分化のところはなかなかうまくとらえられないし、うまく書けない。(大人同士の結婚という形になりがち)
中村 ―― まして当時(平安期)の女性は早熟で、すぐ大人になりますから、未分化の時期というのは非常に微妙な、ごく短い期間です。じつにうまくつかんでいる。

●“猥本”に正直な国民性 ~フランス、イギリス、ドイツ 72
中村 ―― フランスの猥本の主人公は、女性と戯れていながら、いったい人間存在というものは宇宙のなかでどういう意味があるのかとか、神が全能だということは、いったい自分の抱いている女とどういう関係があるのかとか、デカルトは魂と物質の二元論だけども、自分の女に魂があるのかとか、ものすごいことを考えている。
イギリスの猥本にも、ずいぶん聡明な貴族は出てきますが、不思議に形而上学はない。
ドイツの猥本は、これはカントの国ですから、もうむやみやたらと形而上学的で、むずかしくって、そしてエロティックじゃない。しかしドイツ人は、むずかしい細かい哲学的な議論の積み重ねを読むと、ぞくぞくして官能を刺激されるんですね。ホフマンの『尼僧モニカ』など、その典型ですね。だからドイツ人にとっては、カントの『純粋理性批判』はエロティックな本なんでしょう。エロティスムの代表的なドイツ人、女優のディートリッヒが、一生の間、カント狂いだったのも、そう考えるとよくわかりますね。猥本は、ほんとに国民性を正直に表現する。

●日本の猥本 ~舞台、音色、乱れ裾 ―― 粋な逢瀬のお膳立て 73
中村 ―― 日本の猥本の主人公で、霊魂は不滅であるかなんて、女と寝ながら考えているのは、僕は江戸時代のものを気をつけて読んでいますが、ほんとうに一つもない。不思議ですね。
でも日本の猥本は、ものすごく洒落ている。ほとんど優雅に近いというか、とにかく工夫が施されています。
ラブシーンもふつうのところではやらないわけです。
隅田川の船の簾の向こうのラブシーンを、岸の宿屋からオランダからきた遠眼鏡で眺めているとか、ものすごく趣向を凝らしていて、しかも同じ場面は二度とつかわない。それは為永春水の『春色梅暦』を読めばよくわかります。
それから、これは荷風が指摘していますが、ラブシーンのいちばんいいところになると、かならずいい音楽が聞こえてくる。たとえば新内とか。でなければ川の流れとか夕陽がさすとか、つまりすべてが趣向ですよ。それから着物の裾が乱れた、その裾の乱れが火鉢にちょっとあたって焦げた匂いがすうっとただようとか、とても凝っている。そして場面の終わりには、川柳ではなくて、すごく上品な俳句がそえられていて、非常にポエティックです。
日本人はむきだしの表現を好まないんですね。唯美主義です。

●平安期 ―― 憂鬱で精神的な時代 79
(平安期)中国は短編しかない時代ですね。中国では短編が非常に発達しますが、短編では複雑な人間の心理を追っかけるということはできません。中国に心理小説がなかったのも不思議ですが、日本にはあったということは、日本の王朝貴族が心理的な生活をしていたということでしょう。みんな軽いノイローゼで、ひとりでもの想いにふけっているという非常に憂鬱な時代だった。
河合 ―― それに非常に閉鎖的な社会ですから、おたがいをつないで納得させるという役割を物語が果たしていたのでしょうね。
中村 ―― 同時代のフランスの物語などはお伽話です。騎士物語にしても龍が出てきたり空を飛んだり、リアルな話はぜんぜんない。
ところが日本の物語はまったくリアルですね。日本人はそのころからリアルな世界にしか関心がなかったのでしょう。空から奇瑞が起こるという超自然的なシーンはあっても、人が獣になるような超自然的現象はいっさいない。奇瑞にしても鬼が出てきたり妖魔がどうとういうことではなくて、せいぜい急に天気が悪くなる程度です。

●ドッペルゲンガー 84
ドッペルゲンガーを体験する人は意識が中断するんです。ですから、ホフマンの作品『牡猫ムルの人生観』ではまったく関係のない二つの話で構成されている。これなんか明らかに意識の中断ですよ。


【 雨月物語/大庭みな子 】
●“わからない”ものだけを書こう 136
私はもう何十年か……発表するあてなく書いてた頃をいれれば50年近く小説を書いてきてますが、「アイドント・ノー」で「ベリー・ディフィカルト」なものにしか興味がなかったということです。わかることにたいしてはもうべつに書く必要もないし、好奇心ももてません。
上田秋成は、そういう人ですね。不可解なことのまわりをぐるぐる回って、非常に矛盾に満ちた世界にしか興味がなかったようです。

●夢応の鯉魚 142
河合 ―― 「夢応の鯉魚」……画のうまい三井寺の僧が、自分が水の中で魚と一緒に遊んでいる夢をみて、それをそのまま絵に描いて飾っていた。ところが、その僧がほんとうに魚になってしまい、まないたの上にのせられて「助けてくれ」といって口をパクパクしている夢をみるという話しです。
ぼくは立花隆さんを連想しました。
立花さんはなんでも実体験する方で、夢の研究を調査されたときは自ら被験者と鳴り、電極をつけて脳の活動域をたしかめられた。その実験中に奈落の底へドーンと引っ張り込まれるようなものすごく怖い夢をみるんです。それで「やめてくださーい」「実験中止」と立花さんは叫ぶんですが、実験者がやめない。それで、彼は目覚めてから「あれほどやめてくれといったのに、どうして続けたのか。科学者というのはなんてサディスティックなんだ」と詰問する。すると相手が「ああ、立花さん。口をパクパクさせてましたね」といった。立花さんはビデオをみます。するとたしかに口パクはしていて、やっぱり声はないのです。これは「夢応の鯉魚」とまったく同じです。
秋成は、意識がスーッと下降してちがう意識に入るときの、そういう体験をしていたか、そういうことを知っていたのではないかと思うくらいです。
(中村さんとの対談でキーワードにあがっていた「未分化」への想像力に通じる話)
だからでしょう、秋成の作品には独特のリアリティがあります。


【 A・ガッテン/源氏物語 】
●源氏物語の魅力 164
『源氏』は人間の心の非常に微妙な動きとか、自然との関連とか、全体の構成、それから文章表現の切り捨て方というか ―― 全部語らずパッと切っていく。そして後の場面を感じさせるような表現……ああいうところが他の物語よりすごいと感じました。

●『源氏』における死の描写 ~ほかにない眼差し 167
河合 ―― (ガッテンの論文では「大君・紫の君・藤壺」の三人の死を取り上げ、この「死」というものが読み解きの鍵と指摘されるが)『源氏』以前の物語では、人が死んでいく姿を記述したものがないのでしょう?
ガッテン ―― 『古事記』にしてもイザナミの死は書かれていますけれど、あれはまた違う話なのです。
河合 ―― 先の三人は非常に美しく死んでいく。
ガッテン ―― 美しいですが、大君の死なんて、ちょっと怖いじゃないですか。
河合 ―― そうですね、みな、満足して死んでいくのとは違う。
ガッテン ―― それと、ほとんどの物語では「だれだれが亡《う》せにけり」それだけです。『源氏』の死は、まるで間近で見ていたかのように描かれてるんですよね。

●殺人が少なかった貴族社会 182
ガッテン ―― 仏教の影響でしょうか、都のなかでは殺人事件があったかもしれませんが、貴族社会では少なかった。
河合 ―― それが武士の社会になっていったときに、すごい殺し合いになるわけですが(『平家物語』)、それまでの間というのは、ほんとうに不思議な世界ですね。
ガッテン ―― たしかに殺し、死の場面がたくさんある『平家物語』ですが、すばらしい文章ですね。いろろな「もののあわれ」のような語りがあって。

2013_0511












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