和歌山バガボンド  ~読書と木工、ときどき空想~

黒髪ボブの三十路ピーターパンがWakayamaライフを着流しでスケッチ

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『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)

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『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)
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監督/ベルナルド・ベルトルッチ
出演者/マーロン・ブランド マリア・シュナイダー
音楽/ガトー・バルビエリ
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オープニングにエピグラフとしてフランシス・ベーコンの絵画が挿されてるが、ベーコンが描いた絶対領域とこの映画の特質はずいぶん異なる。ビジュアル(社会性、道徳、形作られた人格、合成・造形されたもの)が崩れてもなお感じ取らせる人間性の恐ろしさだとか、性/生のおぞましいほどの存在感は『ラストタンゴ・イン・パリ』にない。この映画は若きベルトリッチの繊細なタッチ、息継ぎ長めの編集(カット割り)、自己愛と孤独に引き裂かれる人物造詣に接ぎあわされた構築物、ラストシーンにしても崩壊やグロテスクさは一切ない。よわくてセンチメンタルな人間どもの形や型、命運《さだめ》がアンビエント、謂れある余韻を残す具象だ。

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自殺で妻を失った中年男性が、20歳の若い女(若さ、これ重要)と名を明かさない交わりを重ねる。この男女関係の哀切たっぷりの描写から、男/中年の痛切さ、みじめったらしさ、希望のなさが炙りだされる。また、愛や性に奔放に戯れる若い女は、その終わりに男を殺すんだぞ若いからって調子に乗るなよという後ろ指=暗喩でもあるが、どうでもいい。どうでもいいというか女たちはそんな風には受け取らない、読み取らないだろう。なにこの子、え? 最後にそんなことしちゃうの? 運、わるくね? まぁしゃーないね、運が悪い女だね。あたしならもっと上手にやるさ、ハハっ。

ベルトリッチが他の映画でどのような愛を描いてるか覚えてない/知らないけれど、この作品では自閉的な症状/関係性をトレースしてる。それはオープニング直後のシーンで主人公の中年男性が両耳を手のひらで封じ、おおきく叫ぶシーンからも読み取れる。なにせ彼は鄙びたホテルの経営者だ。ヒロインとの出会いもアパートメントという密室で果たされるし、妻の母親と皮肉を言い合うのも、妻の愛人と語り合うのもホテルの部屋の中、若い愛人の父の遺品が整理されるシーンも部屋、男の妻の遺体が横たえられて花だらけなのもホテルの一室、男が妻の愛人と隣り合ってバーボンをキメるのは薄暗いホテルの小部屋 ―― 外に出れば様子は一変する。ラン、ラン、ラン ―― うきうきしてるんじゃない、ひたすら走っているんだ。「表から、むき出しから、外界から一刻も早く逃れたい/部屋、心理に、自分自身に閉じこもりたい」とでもいうかのように慌てている、走ってる。

関係とはつながって拓かれることではない、それでは関係とはなんだ? この映画では一つの部屋をシェアするという幻想だとされる。上にあげた様々なシーンこそアリバイだ。「関係性は解放? いや、一つの部屋を借りること、同居に似てる。さらに、それは幻想に過ぎない。家賃を払うというリアルの元、心理は読めない。愛は交わらない」という指摘の現実感が痛切さを湛える。全編を通じ、しがない中年男の……妻が手首を切って死んだという突然の事態(というのは妻側からすればおそらく誤解だ。理由はあったはずで、男は対話せず、放置していた。この「突然妻が死んだ」という錯覚を省みない認識も一種の幼さ)から逃げるしかない甘えた主人公がフューチャーされるけれど、関係なんてない、それは幻想だ、事実や心理なんてわからないというベルトリッチの認識が大人のそれなので最後まで見ていられる(このテーマをミラン・クンデラならギャグとして笑いとして戯画化するだろう。『無意味の祝祭』は傑作だった)。蹂躙しているようにしか見えなかった男女関係から男が落ち、若い女に惚れるくだりも、男の妻が自殺した理由も明かされない、この妻が不倫していた動機も知れない、なにもかも藪の中、あてどない。


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マーロン・ブランドに似てる俳優、息子かなぁ。しっかしよく似てる……ハゲなのにセクシー、流し目されたら壊れそうだ……と思って眺めてたら当の本人だった。おれのマーロン・ブランドのキャリアはゴッドファーザーからだから、あたりがつけられなかった。
ブランドの演じる中年男性の憂鬱がいい。これだけ嘘つきで物を言葉にせず、妻の不倫相手にナーナーで挨拶したりする男は女から嫌われるだろうし、浮気されたって仕方がないと女を擁護するつもりはないが、黙って見つめれば女が自由になるとでも思ってるのかよ、ブランド。おまえ、そういう年齢はもう終わってるんだ、いつまでも現役でいられると思うなよ? おまえの青春はとっくに終わってるんだよ。ハタチ歳前後の女と火遊びにもならないもつれあいを繰り返してるおれにはよくわかるよ、これが最後かも、という予感な、いや悪寒だよな ―― ベルトリッチはこの映画を三〇歳で撮ったらしい。ラストの手前に置かれたシークエンスがフォーマルなタンゴ・タンゴダンサーのカップル、その抒情と耽美のたゆたう踊りではなく、醜くて幼く、甘えた酔いどれどもの見苦しい調子外れのステップだった。若干三〇歳でこの現実感か……ベルトリッチはただの詩人野郎じゃなかったんだな(あそこはベタベタにタンゴでうっとりさせる監督も少なくない。三〇歳だったおれならやってるだろうし)。

20歳(実年齢はもっと若いかも)の女が惜しげもなく全裸(こんもり膨らんだ陰毛も)を晒し、身悶えて喘ぐ中年男性とのセックスシーンは三、四回ある。それもレイプチック、SMチック、アナルファックとアブノーマルな品揃えだ。公開は1972だから当時はショックだったのかもしれないが、いま見ればいわれるほどスケベ映画じゃなかった、というのはネットポルノに毒されてるからか。

冒頭の出会いのカット、あそこはレイプだと言われてるみたいだが、知り合ったばかりの男に抱きしめられた際、あなたならどうする? まずそうならないように距離を取るだろうし、抱きつかれたら叫ぶ、最低でも腕や脚で相手をどけようとし、どうにか逃げようと反射的に抵じるだろう。ところがマリアはそうしない、抵抗するどころか男背中に腕をまわし、口づけにあまんじる。あれのどこがレイプなのか。男のごり押しと色気に虚をつかれた、あとで考えると気の迷いだった……という心情はあったかもしれないが、どう見ても和姦だ。それと嵐のような非難を食ったというアナルファックにしても、あれがアナルだと思った人はよっぽど想像力が豊か、あるいは経験があるかのどちらかだろう。


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ブランドはバターを指ですくい、うつぶせに抑えたマリア・シュナイダーの下腹部にツッコんでぐりぐりし(ているらしい、キャメラはブランドとマリアをアップで見つめる)、眉間に皺をよせるマリア ―― ここでカットが変わりキャメラは俯瞰から二人を見下ろす。ブランドが腰を動かし、ヤられてるマリアに聖なる文句を言わせる。つまりアナルでヤってるかもしれないが、うつぶせのバックかもしれない……と曖昧にされているし、あのシーンのエロスはアナルファックかどうかに属さない。酷いセックスを強いられてるマリアが更に無理強いされる、聖書やキリスト教につながるイメージ群、単語やフレーズのフラグメント、「マリア、オレが言うとおり、聖なる祈りの言葉を吐け。聖を口にしながら喘げ」と。後ろからヤられながらマリアは言う、はじめは抵抗していたのに、途中からだんだんブランドの命令に従う ―― 神さまごめんなさい素敵大好き名にコレ気持ちいいアイシテル……! ―― ありがちな善悪/主従/聖と聖の混濁であり混淆であり倒錯だ。それと、掌握した性/聖でもってマリア(!)をうつぶせで、おしつけ、後ろから犯す(という心理戦でありレイプとは大違い。これはSMの基本的なフォームであり関係性。信頼関係がベース)ブランドのマチズム、この二つの濃厚な絡み合いがエロティズムの命脈だ。くわえ、グリグリうごくブランドのぎこちない腰使いがもどかしい性欲を表象していて卑猥だった。

『ラストタンゴ・イン・パリ』で勃つか、濡れるかっていうと、たぶんあんまり来ない。『ブルー・ベルベット』のセックスシーンのほうがいやらしい気がするなんて比較は不当かもしれない。なんにせよ直接的な刺激じゃなければ性的に昂ぶらなくなったっていうのは生物としてダメになってる証だと思う。

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ラストシーン、永遠の別れの場面だけは窓が開け放たれ、主人公はベランダに斃れる。左胸の銃痕がようやくの風孔だとでも言いたいのか? ベルトリッチ。死に託された希望というロマンチズム。思い返せば女性のアップでキャメラは止まり、数秒 ―― カメラはおもむろに目線を低くし、床には女の帽子とコサージュがあった。詩的で憂鬱、それも退廃的なカット ―― どこかで映画をポーズし、プリントスクリーンでもってワンカット切り出しても、その静止画からこの映画のシナリオや人物のトーンが感じられるだろう。絵作りの妙。ベルトリッチの潜在能力を深読みさせる。

2015_0806




メー

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